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R&Dエンジニア

張 森 Sen Zhang

千葉大学の飛び入学制度を利用し、17歳で入学。
3年で大学を卒業し、総合研究大学院大学で素粒子物理学の博士号を取得。

岡山光科学研究所に勤務し、研究を進める傍らITに興味を持つ。SIer、機械学習関連のベンチャー企業を経て、現在はEYS-STYLE(現2nd Community) Inspiartプロジェクトにて、機械学習による楽曲ミキシングなどの研究開発を担当する。

15歳、中国から日本へ。
17歳、飛び級制度で大学入学。
20歳で大学を卒業し、
素粒子物理学の博士号をもつエンジニアが語る
物理学と機械学習、そして量子コンピュータ

「物理学から機械学習に進む研究者は意外と多く、考え方として似ているところも結構あるんですよ」素粒子物理学で博士号を取得し、岡山県立の研究所で5年間理論物理学の研究に従事した張 森氏自身も、物理学の研究者から機械学習エンジニアへとキャリアを転換した。そのキャリアのスタートは15歳で、故郷である中国から日本へとやってきたときまで遡ってもよいのかもしれない。まずは若干20歳で大学を卒業した同氏の経歴から紐解こう。

Sen Zhang

言語の壁を乗り越え、飛び級で大学へ入学

中国で生まれた張 氏が、先に帰化した母を頼って来日したのが15歳のときだ。「中国は教育においても“割当制”なのですが、当時私が住んでいた地域は人口が多い割に政治的なパワーがなく、進学には不利でした。将来のことも考えて、高校からは日本で進学することにしたんです」その時点で、日本語は話せない。来日が決まってから、さらに高校編入前に3ヶ月ほど日本の中学に籍を置く間に、日本語を学んだ。高校の編入試験は英語と数学のみとはいえ、それだけで日本語で高校の授業を受けられるレベルに到達したのはすごいとしか言いようがない。
その後、高校2年で千葉大学の飛び入学制度(先進科学プログラム)を利用して入学。「数学や物理はずば抜けて成績が良く、自信がありました。ですが、国語はなんとか平均点以上はとれても、いい大学に入るには厳しい。この制度なら試験は英語と物理、数学のみになります。こういう制度があると教えてくれた高校の先生には感謝しかないですね」と話す張 氏。数学や物理が成績優秀であったことは納得しかないが、むしろ来日してわずか2年の間に国語で平均点以上がとれることに驚きしかない。「読解における文章の構造は万国共通な部分があり、意味を読み取るコツは言語に依存しないと感じています。漢字は必死に勉強しましたけど」と笑う。そして、千葉大学を3年間で卒業し、総合研究大学院大学に進学。25歳で素粒子物理学の博士号を取得した。

Sen Zhang

研究者を経て、IT業界へ

大学院修了後、岡山光科学研究所に研究員として就職。5年間理論物理学の研究をおこなった。ここでは地域還元の一環として、研究員が物理オリンピック日本選抜での成績優秀者を対象としたサマースクールや、市民向け公開講座の講師も担当する。「これは私の性格なんですが、講師をするときに同じテーマで2度話すのが嫌なんです。でも、何度も講演するうちにネタ切れになってしまって……」そしてネタを探すうちに出会ったのが、自己組織化、なかでもチューリング・パターンである。チューリング・パターンではシマウマの縞模様の例がよく挙げられるが、一見高度に思える生命現象が実は簡単な組み合わせでできているという理論。また、経済学で有名なクルーグマン氏の著作である『自己組織化の経済学』を読み、“市場原理は一種の自己組織化である”という考えを知った。「この発想はもっといろいろなことに発展できるし、絶対おもしろいことができるという直感がありました。“簡単なルールの組み合わせ”を実装するなら、コンピュータのプログラムが適していますし、なにか問題を探すなら社会の方がいいだろうと思ったんです」そして、研究者としてのキャリアを中断し、IT業界へ飛び込んだのだ。

Sen Zhang

「自分でなければならない」仕事をしたい

研究所を退職後、企業システムの受託開発をおこなうSIerで1年ほど働いたが、なにか違うという想いは日に日に増していった。「研究者だった自分は、より希少性の高いものを提供すべきではないかと思うようになりました。あとはデータを取得して解析するのが、思った以上に楽しかったこともあります」ちょうど機械学習がトレンドになっていたタイミングでもあり、音の機械学習に関する開発を手がける企業への転職を決意した。この会社で金 氏と出会い、やがてInspiartに参加する。「最初は京都で合宿をやるからと誘われて、参加しました。まだ具体的な開発は進んでいませんでしたが、Inspiartでやりたいことや方針を聞いて、興味がわきました」2018年11月のことである。一泊の合宿で、社長をはじめ一緒にプロジェクトを進める仲間の人となりが見えたことも大きい。ここなら大丈夫だと、参加を決めた。
EYS-STYLE(現2nd Community / 以下、EYS)の自由な働き方も魅力だったと話す。「これまでの研究で幅広いテーマを扱ってきました。多くの企業に自分の知識や経験を提供したいという想いはあります」この想いに応え、実際、Inspiartを中心としながらほかのプロジェクトにも並行して参加しているそうだ。「自分でなければいけない仕事だけしたいんです。それがパフォーマンスの最大化にもつながると思うので」スキルに見合った働き方を柔軟に受け入れるEYSならではと言えよう。

Sen Zhang

物理学と機械学習は、似ている

機械学習の開発へと活躍の場を移し、研究者としての経験が活きたかというとそれほどでもないという。「私は理論研究がメインで、データ解析の経験はなかったので、その意味ではハンディキャップがありました。ただ、考え方として物理学と機械学習は似ている部分があります」世界を見ると物理学から機械学習に進む研究者は多く、機械学習のバイブルとされる書籍も張 氏と同じ素粒子物理学出身の研究者が著者に名を連ねる。「もちろん物理学の知識がそのまま適用できるわけではありませんが手法が転用されているケースも多く、モデルや数式を見れば、何ができそうか、どこに問題があるかがある程度分かります。それはみんな当たり前にできることだと思っていたのですが、普通はできないらしいと最近気づきました」と話す。これまでいかにレベルの高い環境に身を置いてきたかが分かるエピソードだ。
「得意だからできる、というだけで職業を選びたくなかったんです」やるならば好きなことをしたい、と語る張 氏がInspiartに出会ったのもひとつの運命なのだろうか。SIerでの1年間も、自らが進むべき道を見つけるために必要な経験だったのかもしれない。

Sen Zhang

ディープラーニングで夢を描く

Inspiartでは楽曲のミキシングについて論文調査からデータ収集、モデル構築、実装までを担当する。まずは、最先端の研究がどこまで進んでいるかの調査からはじめた。「ディープラーニングは画像の分野が圧倒的に進んでいます。音というだけでもハードルが高いうえ、音のなかでも環境音の方がまだ進んでおり、音楽となるとあまり研究は進んでいません。思った以上にまだだれもやっていない分野なので、開拓し甲斐があります。みんながやっているところでは“うまみ”がないですし」すでにミキシングのプロトタイプ作成に取り掛かっており、ここからは試行錯誤を繰り返し、完成を目指す。音楽と機械学習の研究において先駆者となるべく、研究を進めるのみだ。
研究を進めるなかで、今後取り入れたいと話すのはGAN(Generative Adversarial Network、敵対的生成ネットワーク)。「ニューラルネットワークを2つ用意して協力させるモデルは、理論としても面白いと思っています」画像系ではすでに成功を収めているモデルで、最近では、GANによりある音をほかの楽器の音に変換するという論文が発表されている。これまでは画像で使っていた技術を音楽に応用しても、“それなりに使える”を超えられず決め手を欠いていたが、ここ数年で大きく進化。今なら音楽でもかなり使えるのでは……と話す。「たとえば、音楽のスタイル変換、クラシックからジャズに変えるようなことができたら面白いなと思います。今はまだ夢の域を出ませんが」いつかこの夢をかなえてくれるのではないか、張 氏と話していると、そんな期待が膨らんでいく。

Sen Zhang

次の研究対象は「量子コンピュータ」

もうひとつ今、張 氏が興味を持っているのが、量子コンピュータだ。先日世界初となる商用量子コンピュータが発表され、世界的にも注目を集める分野だ。「商用化といっても、まだ実証実験ができるというレベルで、実運用はまだ難しいでしょう。今、量子コンピュータのビット数を増やそうとしてさまざまな企業が研究開発を進めているので、どうなるか楽しみにしています」分析や解析、シミュレーションに強いとされる量子コンピュータは、機械学習にも活用できる。「グラフ系の機械学習のタスクをいくつか量子コンピュータで解けるので、この領域は取り組みたいと考えています」グラフ系も、3年ほど前からディープラーニングへ展開されはじめ、数百本もの論文が発表されるなど多くの分野で調査・研究が進んでいる分野だ。「まだ音楽に適用できるかは未知数ですが、これだけ研究が進んでいるので、なにかが使えればいいという想いはあります」 現時点の量子コンピュータは、まだInspiartに直接利用できる段階ではないという。しかし、遠くない未来に量子コンピュータで楽曲が生成される日がくるのかもしれない。

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張 / 執筆記事

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“Inspiart”プロジェクトを推進する
プロジェクトメンバーのご紹介

cso
CSO

九頭龍 雄一郎

国内大手楽器メーカーからシリコンバレーの音楽系ベンチャーへ、さらに帰国後介護関連デバイスを開発するベンチャーに参加。

2018年EYS-STYLE(現2nd Community)の取締役CSO / Inspiart事業本部長就任。同時期に株式会社クレイテックを起業し、製品企画からハ ードウェア/ソフトウェア開発、生産まで全プロセスを手がけてきた経験を強みに、新規事業開発などのコンサルティングを おこなう。

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大塚 健司
CTO

大塚 健司

京都大学理学部卒、SIerにおけるシステム開発を経て2013年EYS-STYLE(現2nd Community)入社。

その後、株式会社ぐるなびなどを経て、2016年にEYS-STYLEのCTOに就任。Web開発、Android Phone/Wearの開発、機械学習など幅広い分野の開発経験を持つ。現在は、EYS STYLEのInspiartプロジェクトにおいてブロックチェーン開発及びEYS-STYLEモンゴルオフィスのマネジメント業務を担当する。

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金 賢
R&D エンジニア

金 賢

早稲田大学基幹理工学部応用数理学科卒業、シンガポール国立大学大学院理学研究科数学専攻修了(修士)。

卒業後シンガポールで自動運転自動車の時系列データ解析、センサーフュージョン、センサー外れ値検知、物体検出などのモジュールを開発。日本に戻り、音声認識、異常音検知などのプロジェクトに従事。現在は楽曲の自動作成、音源調整技術を開発中。

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張 森
R&D エンジニア

張 森

千葉大学の飛び入学制度を利用し、17歳で入学。
3年で大学を卒業し、総合研究大学院大学で素粒子物理学の博士号を取得。

岡山光科学研究所に勤務し、研究を進める傍らITに興味を持つ。SIer、機械学習関連のベンチャー企業を経て、現在はEYS-STYLE(現2nd Community) Inspiartプロジェクトにて、機械学習による楽曲ミキシングなどの研究開発を担当する。

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ハダノウィチ アレクセイ
R&D エンジニア

ハダノウィチ アレクセイ

ベラルーシ出身。東京都市大学卒業後、同大学院にてEnd-to-End音声認識システムの研究・開発を行う。

同時にEYS-STYLE(現2nd Community) Inspiartプロジェクトに参画し、機械学習によるノイズ除去に関する開発を担当。

Convolutional LSTMなどのニューラルネットワークアーキテクチャの研究を専門とする。

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野田 誠人
CTO

野田 誠人

大阪大学理学部数学科中退。SES企業に入社し、C#を中心としたシステム開発を手がける。その後、かつてバンドに参加していた縁からEYS-STYLE(現2nd Community)に転職し、ほぼ唯一のエンジニアとして基幹システムを構築。結婚を機に京都へ生活圏を移し、フリーランスを経て塾・教育業界向けシステムを受託開発する企業に転職。講座や出欠管理から動画配信、LINE連携までさまざまなサービスを開発した。2019年4月、Inspiart事業に参加すべく再びEYSに入社。

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